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安寧なんか欲しがりません

まだまだ、まだまだですよ~

連載小説「電話」①(新連載はじまりはじまり~)

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電 話(第1回)


相手の電話を呼び出している音を3回、4回と数える。
何回まで数えて出なかったら切ろうか…あまり事情のわからない相手にかける電話はそれだけでも緊張する。
夜の9時。よく考えてかけた時間だ。

「はい、吉本です。」

と聞き覚えのある声が応答する。ホッとして、少し懐かしい。

「わ・た・し、分かる?」と聞いてみる。ちょっと笑いを含んでいたかもしれない。

「誰?えー、聞き覚えあるぞ。」なかなかいい声、そうだった吉本は声自慢の男だった。

「フフ、マリリン・モンロー貰った女」

「ああ、おまえか。」ホッとしたような気の緩んだ声。

「名前忘れたんと違う?」

「覚えてるわ、カーコやろ?カーコやな。忘れてへんで。おまえのあのときの声も」

「あほっ!」二人で笑う。

吉本とは一度寝たことがある。23歳のとき。
私の23年間で最悪のとき、最悪の記憶。
あれからもう25年近く経っている。もう笑える記憶になっていた。

15年位前に一度再会した。
結婚後も私は両親と一緒に実家で暮らしていた。
私が住んでいる町の近くに来たついでと言って突然電話をかけてきて、喫茶店で会った。

「野球部の生徒がこの近くの高校からスカウトされて、どんな学校か見にきたんや」と言っていた。
吉本は中学の教師をしている。

「6歳と2歳の子どもがいる。共働きで毎日戦争みたいや。おまえは?」

「私はどうもできひんみたい。」

「ふーん、そうか…」

とそんな会話を交わした。

大学の教職課程の授業で一緒になって、ノートを貸し借りするうちに親しくなった。
経済学部の学生で自分ではプレイボーイを気取っていた。
見た感じもプレイボーイ風。すぐにホテル行こか?と言うのが口癖の、全く恋愛対象にならないタイプの男だった。
でも、なぜか気が合って卒業まで同じ親しさで付き合いは続いた。
吉本が私のことをちっとも本気でホテルに誘っていないことはお互い了解事項で、
会うたびにホテル行こ、あほちゃうと言い合うのが二人の間の挨拶みたいになっていた。


「どうしたんや、まだ生きてたんやな。」

「うん。生きてるよー。吉本君も生きてたんや」

「うん。なんとかな」

プレイボーイぶっても、根が妙に真面目でそしてやさしい男であることを私は知っている。
最後にあった日から15年以上、電話一本、はがき一枚のやり取りもなかった。
私は、この男に聞いて欲しいことがあって、唐突に15年ぶりに電話をかけている。
電話番号が変わっていたらもう二度と繋がらないそんな相手に何を聞いてもらいたいと思い立ったのか。
なぜ、聞いてもらいたいと思い立った相手が吉本だったのか。

短い会話を交わして、私は自分の選択が間違ってなかったと思った。吉本に聞いてもらいたい、と思った。

「聞いて欲しいことがあるの。できれば助言というか、批評というか、も欲しいの」

「長い話か?」

「うん、そこそこ」

「ほんなら、別の時間でもええか?今から娘の塾のお迎え行かなあかん」

「うん、それでいい。この電話にまだ居るかどうか分かっただけでいい。いつ掛けたらいい?」


吉本は携帯電話の番号を教えてくれた。土曜日の2時にかけて来い、と言ってあっさり電話は切れた。

(第2回は3月25日公開予定)



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