安寧なんか欲しがりません

まだまだ、まだまだですよ~

連載小説 電話 ②

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電話(第2回)

教職課程の教育心理学という授業で、空席がたくさんあるのに私の隣に座って、
先週のノートある?と聞いてきたのがきっかけだったか。
その授業は、出欠も取らないし単位も取りやすいという評判で、登録している学生は多いのだろうがいつも講義室は閑散としていた。
私はその前と後の授業には絶対出たかったので、教育心理はほぼ皆勤状態。せっかくだから熱心に聞いている授業だ。
その不躾な男子学生に何もいわずにノートを見せて、

「終わってからでいいやろ」とちょっと迷惑そうな顔をして見せた。

「あー、有難い。隣に座ってていい?」と無邪気に聞くので、変なやつ、と思いながらも最初の悪い印象は霧散した。

吉本は結構、真面目にその授業を聞いていた。彼のノートは几帳面な文字で埋められていた。
授業が終わって地下の大学生協へ降りてコピーサービスのコーナーまでいっしょに行き、
ノートのコピーが終わるまで待って、その後カフェテリアでコーヒーを奢ってもらった。

テーブルに着くなり、「名前なに?」なんていう聞き方をして不快がらせないのは持ち味なのか。
吉本は自分のキャラクターを使いこなせている、世渡り上手な奴、という印象で、今までの私の交友関係には見当たらないタイプの人間だった。
私が名乗ると、「カーコって呼ぶわな」と笑いかけ、「僕は吉本サトル、どう呼びたい?」 と聞いたので、私はペースを乱されて乗せられるバカな女にはなりたくない、という意識が働いて「吉本君と呼ばせてもらう」とそっけなく答えた。

「文学部?」と聞くので「違う」と言ったら「なーんや社会学部か」と言ったのでちょっとむっとして、「経済かも知れへんやん」と言ったら「僕、経済学部やもん。経済の女のことは一人残らず知ってる」と自慢でもなさそうに当然のことのように言った。

次の週のその授業でまた会って、飲みに誘われて、セックスフレンドになろう、と持ちかけられ、あほちゃうん、と私が笑って、吉本もなぜかすごく笑って、それ以後会うたびにホテルへ行こ、あほちゃうんが挨拶代わりの関係になった。
そのまま卒業まで同じ距離に居る男ともだちだった。お互いが全く恋愛感情の対象にならない関係だった。

卒業式の日、キャンパスでスーツ姿の彼にすれ違ったとき、「来年もう一回挑戦するねん。」と言った。
前年の教員採用試験に落ち、私企業への就職を決めていた。大手の電機メーカーだし満足しているのかと思っていた。
先生っていうより営業マンに向いてそうだし。
でも吉本は、中学校の先生になりたいねん、といつか私に珍しく本音を吐いたときの気持ちを捨てては居なかったのだろう。
私は教職課程は取っていたものの教師を本気で目指していた訳ではないので、何となくまぶしくその後姿を見送った。

(第3回は27日に公開予定)



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