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安寧なんか欲しがりません

まだまだ、まだまだですよ~

連載小説「電話」④

電話 第4回

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芝居男との付き合いは順調だった。
初めての行為が不首尾に終わったことについては、二人は慎重にそこを回避しながらではあるけれど。
二人でたくさんの芝居を見て歩いた。
彼の劇団の公演を見に行くと、高校生のファンの女の子に囲まれながら私に笑いかけてくる男を見るのが気恥ずかしくてならなかった。
ファンの女の子から貰ったマフラーを私にうれしそうに見せたりした。
昔ファンだったアイドルのために編んだマフラーとそっくりなのには驚いた。色の組合せもそっくり。芝居男には黙っていたけど。

卒業がちらちらと見え始めた頃、男は卒業後東京へ行くつもりだと言った。
ある俳優の主宰する劇団に誘われているから、と。いっしょに東京へ来て欲しい、と言った。
私はそういう誘いの言葉に喜ぶ一方で、全く現実感を持てなかった。
とても二人で東京で暮らす生活を思い描けなかった。一人っ子の私は両親のそばを離れることを想像できなかったし。
吉本はそんな私のためらいを「セックスしてないからや」と分析した。
「なに、それ」と私は言い返しながら、吉本が言っている意味とは違う意味で、そういうことも原因としてあるのかもしれない、と思えなくもない自分もいた。
芝居男と私の関係には現実感がない。現実感がないとわかっても恋しさは残っていた。

冬が深まっていくある日、吉本が友達を連れて私の前に現れて一緒に飲みに行こう、と誘った。
吉本と中学、高校が同じだというその友達男と3人で繁華街まで出かけた。クリスマスが近かったのかもしれない。街は電飾にきらめいていた。
吉本は京阪沿線の寝屋川という町から通学していた。
阪急沿線の私も帰りやすいように先斗町へ行った。騒がしい焼き鳥の店だった。
なんだかすごく飲んで、私の恋愛話に焦点が絞られ、男二人は私の恋人の芝居男ことを言いたい放題にぼろかすに言っていた。
「その男のせいでカーコは22歳でまだ処女のままや」と吉本は友達男にばらして友達男は、「カーコさん、処女?眉間の皺はそのせい?」なんて言い出して私は眉間のあたりを指でごしごししながら笑ってるつもりがいつの間にか泣いていた。芝居男が私の中でどんどん遠くへ行ってしまう気がした。
それから3人でカラオケのある店に行き、私は「大阪で生まれた女」を歌いながらめちゃめちゃ泣いた。鼻水を垂らして泣き続ける私の背中を吉本は黙って優しくなでてくれた。


クリスマスに難波の近くの教会で男の劇団の公演があったけど、私は行かなかった。濃厚なラブシーンがあるから見に来るな、と男が冗談めいて言っていたけど、そのこととは別の気持ちで行かなかった。
年が明けて私は芝居男に手紙を書いた。思っていることを率直に書いた。
一週間ほど何の返事もなく、電話がかかってきて明日からしばらく東京へ行く、とだけ言って電話が切れた。
ゼミにも出てこなくなり、そのまま卒業式にも現れなかった。宙ぶらりんのまま私には社会人としての新しい生活が始まった。
大阪のデザイン事務所で広告の文案を書く仕事で、帰宅はいつも終電ちかかった。
通勤途上の公園では毎年ザクロが見事にオレンジ色の花を咲かせる。
ザクロが満開の頃になって手紙の返事が来た。東京で暮らすことになるので別れようと書いた手紙だった。
なに?!と私は思った。別れるにしても話すことがあるような気がしたのに、手紙で済ませちゃうのか。
少し後でその男に新しい恋が始まりつつあることを、ゼミの友人から聞いた。
私はすごく傷ついた。最後に出した手紙に返事がもらえないまま空間と時間をブツンと切断されたみたいな気持ち。
時間と空間と私の肉体もブツンと切断されたみたいな気がした。立ち直れなかった。
ある週末の夜、会社帰りに吉本を呼び出した。酔っ払って、ホテルへ連れて行け、と吉本に言った。
吉本は、「こういうとき僕は紳士的な態度はとれへんぞ。やれと言うならやるぞ」と言った。私は「かまへんから」と言った。
安っぽいラブホテルで私は吉本と寝た。
初めてだったけど、すごく感じてしまった。私は何度も別れた男の名前を呼び、。吉本は何度も私に挑みかかってきた。最低最悪の処女喪失だった。


※次は最終回です。吉本に何10年ぶりかで電話して、「私」が吉本に聞いてほしいことってなんやったんでしょう。どうせしょうもないことなんやろなぁ。


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