安寧なんか欲しがりません

まだまだ、まだまだですよ~

連載小説「はじめまして」その4

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はじめまして④

相変わらず気難しい春菜と渉の育児に埋没する数年が過ぎた。春菜を私立の小学校へ入学させるのは早いうちにあきらめた。春菜は悉く朋子の意に添わない方へばかり向かっていくように思えたからだ。朋子が私立へ行かせたいと願えば、絶対無理ですね、と幼児塾の塾長に言い渡されるような子どもになった。それは春菜の意志のようにも思えた。そのように思えてしまう朋子だったというべきか。 
春奈が小学校に入いる直前のこと。誕生日に幼稚園のお友達を招いて小さなパーティーを開くことになり、通園バスが同じになる四人の子どもを招いた。その中の特に体の小さい女の子が、送って来た母親と離れたがらなかったので、そのまま母親も同伴してもらうことになった。春奈はお友達の中では快活でよくおしゃべりをする。母親にはあまり見せない表情の春奈に朋子は春奈の自分へ拒絶を改めて見せられたような気がした。ダイニングのテーブルに腰掛け、リビングの子どもたちの様子を見ながら、母親同士の世間話をしていたが、その女の子はしきりに母親の元に駆け寄ってくる。キャンディの包みをむいてくれ、とかケーキのクリームが頬についたから拭いてほしいとかで母親にいちいち甘えにやってくる。その母親は、面倒くさがらずに優しく子どものいうままにしてやっている。何度目かにその女の子が母親のところへやってきたとき、春奈が、その様子を目で追っていることに朋子は気づいた。珍しそうに見ていた。羨ましそうに見ているのかもしれなかった。朋子は、よその母親と自分の母親を比べて羨ましがるなんて母親への裏切りだと感じた高校生のときの記憶を蘇らせた。無念な気持ちがこみ上げた。その無念さが哀しく自分をこういう気持ちにさせる春奈を少し憎んでしまったような気がする。その女の子は、春奈を入れたかった私立の小学校への入学が決まっていた。母親に手放しでこんなに甘えてくるその小さな女の子を、朋子は自分でも気がつかないうちに羨ましく見ていた。

その小学校へ渉は難なく入学した。
渉が小学校へ上がる年、春菜は四年生になり、多少は扱いやすくなってきたようにも思え、朋子にとっても穏やかな心持で二人の子どもの母として、その年の桜を眺めた思い出がある。
夫は穏やかな人だ。春菜も気難しいとはいえ健康に育っている。そして私の渉ーー朋子は渉にはつい私の、と付けたくなってしまうーーは、私の望むとおりの子どもに育っている。利発で素直でかわいい。私は、幸福な主婦だわ。家の近くの公園の桜を眺めながらことさらにそんな思いを反芻した朋子だった。

つづく


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